ENTRY
Leaders

リーダーを知る

Yutaka Matsunaga

マシーンと称された男は、
教育の未来に夢を見る

株式会社ケーイーシー CTO松永 裕

  • 人間よりも、
    コンピュータと話すほうが楽

    機械に例えられるのは心外? いや、自覚はある。「人と接するのは得意じゃないんですよね……コンピュータと対話しているほうが楽です」と言い放つ姿も涼しげだ。それくらい寡黙で、冷静で、合理的で、ロジカル。タフで難易度の高いタスクも、感情に左右されず黙々と「Mission Complete」し続ける最強のパーフェクト・マシーン。「コミュニケーション大好き!」な人間が多いKECにおいては、かなり異彩を放つ存在かもしれない。

    だが、誤解してはならない。そのマシーンには、血が通っている。夢を見ている。KECが作り出す教育の未来に、自らの存在意義を重ねている。そして何より、実はいい表情で笑う。マシーンの名は、松永裕。システム開発部門を担うCTOだ。

    三重県の山あい。畑や田んぼが広がり、風が稲穂を揺らす音が響く。幼い彼は、そこで泥だらけになりながらザリガニを捕まえ、跳ねまわるカエルを追いかけていた。一方で、時代の変化や技術の革新は、少年に新たな刺激を与えていく。折からのファミコンブームの影響もあって、TVゲームにハマったのだ。やがてプレイするだけでは飽き足らず、「自分で創ってみたい」と思うようになった。かつて泥にまみれていた手には、後に人生の相棒にして武器ともなるキーボードが。中学生になるころには、「プログラマーになって、自分の会社を立ち上げる」と周囲に公言するようになっていた。

  • 夢を叶えて起業も、
    新たな道へ

    大学卒業後は、プログラマーとしてシステム開発会社に就職。さらに大手メーカーのシステム子会社への転職を経て、技術と知識を磨く。そして、中学生のときに仕込んだプロンプトも正確に実行された。仲間と共に起業を果たし、若くして医療パッケージの開発・販売会社を創設したのだ。当時は、医療に取り立てて強い関心や思いがあったわけではない。「プログラミングができればそれで良かったんです」と淡々と語るあたりも松永らしい。

    ただ、ビジョンはあった。起業したのは約20年前だが、比較的早い時期から「AIの時代が来る」と予見していたと言う。一方で、多くのイノベーターたちがそうであったように、時代を先取りしすぎた考えが周囲の理解を得るには時間がかかるものだ。やがて、仲間とのベクトルの違いが埋められない溝となったとき、松永は会社を去る決断をした。

    しかし、人生とは不思議なものだ。「さて、これから何をしよう」。培ってきた技術を生かして今後自分がどう生きるかを考えたとき、伏線を回収するかのごとく、無関係に思えたすべての経験が繋がりを持ち始める。物語は、信号が電子回路を駆けめぐるかのように、一気に加速し始めた。

  • テクノロジーは教育を、
    「人のあり方」を変える

    無口なマシーンが、珍しく饒舌になる。「医療系の開発業務をしていたころ、病院のベッドに寝かされ、“ただ生かされているだけ”の人をたくさん見てきました。一方で健康であっても、時代の変化に対応できず社会からこぼれ落ちていく人もいます。人生100年時代と言われる世界において、健康であることと社会と繋がり続けられることの大切さを痛感したんです。そこで思いました。そうして取り残される人を救うのが教育ではないかと。どんなに社会が変化しても、強く自分らしく生きられる力を届ける営み、それこそ教育だと。さらに今後、AIが社会を変えるだろうという考えには、確信に近いものがあります。ならば、テクノロジーはきっと教育を変えられる、『人のあり方』を変えられると思ったんです」。

    人がより良い人生を生きるため、教育は大切だ。そうなるよう、教育をより進化させたい。しかし自分は技術者であり、教育者ではない。教育の進化をシステムでどう再現していくか。それこそ、自分の強みを生かせるステージだ。それはまさに、松永自身が自らと社会を結びつける行為であり、KECのパーパスである“「学び」といきるをつなげる。「いきる」と社会をつなげる”そのものでもあった。

    「豊かな人生」──松永にとってそれは、「やりたいことができ、死ぬ直前に『いい人生だった』と思えること」だと言う。今までもそうやって生きてきたつもりだし、幸せも感じている。だからこそ他の人にも、自らが望んだ生き方で幸せになって欲しいと願っているのだ。

  • AIの時代だからこそ、
    人間ができることを大切に

    そんな松永がKECの門を叩いたのは、もはや必然だった。松永らしく「あらかじめプログラムされていた」と言ってもいいのだろうが、ここはあえて「運命に導かれた」と表現したい。「KECの教育観はもちろんですが、代表の小椋に共感したと言うか、気迫に押されたと言うか」と笑う松永。パーフェクト・マシーンよろしく、自分も目標達成に対しては高い熱量を持つタイプだと自負していたが、それと同じかそれ以上の衝動を持つ人間が、こんなところにいた。これだから出会いは、生きることはつくづく面白い。

    さらにこう続ける。「通常、企業のシステム構築は外注するのが一般的です。塾企業ならなおさらでしょう。なのにそれを内製化して一つの事業部にまでしてしまおうというスピリットがすごい。現状維持を良しとせず、常識にとらわれず変えていく姿勢があるんだな、この人たちは本気で教育を変える気だ、と感じました」。

    入社して数年。手掛けてきた基幹システムの基盤は整った。しかし、目線はすでにその先を見据えている。AIを活用し、塾の業務を最適化する仕組みを作ることだ。「これまで人の手を割いてきた煩雑な仕事を機械にゆだね、人だからできる『教育』に力を注げる環境を創りたいんです」。その声には明確な意志が宿る。

  • パーフェクト・マシーンに発生した、
    小さなバグ

    ただ、松永の性格自体は変わらない。相変わらず寡黙で、冷静で、合理的で、ロジカルだ。今日も、タフで難易度の高いタスクを黙々と「Mission Complete」している。

    他のKECのスタッフたちとはかなりタイプが違うが、だからこそいい。たとえみんなとは異なる意見だったとしても、批判的な視点で何かに気付けたり、提案できたりすることが、自分の強みであり役割だと思っている。「私は昔から、人の言うことをそのまま聞くのが嫌いで。人の言葉の奥にある意図を見抜き、問題の根幹を解決することが大事だと思うからです。それに、相手の予想や期待を上回らないと面白くないでしょう? 命令されたとおりにこなすだけなら、それこそAIに任せておけばいいんですから」。無駄なく本質を射抜く視点も、エッジが効いた言い回しも相変わらずである。

    そんな松永だが、「でも」と前置きし、まんざらでもなさそうな顔で微笑んだ。KEC入社で、少しだけ変化した部分もあるのだと言う。それは、パーフェクト・マシーンの中に発生した小さなバグだったのかもしれないが、今後も修正の予定はない。

    ――「最近は、ちょっと人間とも話せるようになってきたと思うんですよね」。