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Yuko Fujita

「スナック優子」、
ただいま開店準備中!

株式会社ケーイーシー人事部執行役員藤田 優子

  • わたしは、わたしのままでいい。
    あなたも、あなたのままでいい

    母は言った。「困っている人を助けなさい。間違えたら素直に謝りなさい。何かしてもらったら、ありがとうと言いなさい。いつもニコニコしていなさい」。意志を強く。凛として柔らかく。その教えは血となって今も体を流れているし、藤田優子が藤田優子たるアイデンティティでもある。

    しかし藤田は言う。「私なんてもう、コンプレックスのかたまりですよ!」。新卒で個別指導部のスタッフとして入社。教室長、ブロック長、教務部長などを歴任し、わずか10年強で人事部執行役員にまでなった今でも、肩書きや社会的立場で見られることは居心地が悪くて仕方がない。「いや、だからそんなエライ人間じゃないんですって!」とむずがゆそうに身をよじらせて主張する。自分をサゲる言葉をここまで清々しく、ハイテンションで言い切る女性も珍しい。ちなみに将来の夢は「スナックを開くこと」だ。

    だがその根底には、ゆるがない想いがある。「わたしは、わたしのままでいい。あなたも、あなたのままでいい」。「人事部執行役員の藤田」ではなく、単なる「藤田」として見て欲しいし、相手にもそんなふうに接したい。描いているのは「自分が自分でいられて、自分で考え、行動し、決められる世界線」だ。これは、そんな藤田のシンデレラ・ストーリーである。

  • キレイごとがキレイごととして
    まかり通る「聖域」

    幼いころから、人気者の姉に強い劣等感があった。家庭は厳しく、年ごろになっても門限は夜8時で、髪の毛も染めてはダメ。もちろん家族のことは大好きだが「そういう劣等感や抑圧から解放されたいって気持ちは、今でも本質的に持っている気がしますね」と語る。幼心に自分を「いい子」に当てはめようとし、苦しかったのかもしれない。「自分は自分でありたい」と願う少女の心を胸に抱いたまま、藤田は大人になった。

    そんな藤田を教育の世界に向かわせたのは、教育実習での経験だ。ただ、やはり「わたしなんかが偉そうに教えるなんて」という思いはあり、あまり熱が入らなかった。教壇に立っても生徒たちの顔がみんな野菜に見えたし、放課後に指導案を作るのも退屈で仕方ない。しばしば作業を抜け出し、教室にたむろする女子生徒たちと女子トークに興じていた。

    だが、それが良かった。「好きな人おるん? とか聞いたりね(笑)。先生とか生徒とか関係なく、対等に話せるのがほんとに楽しくて」。見える世界が色を帯びたのはそれからだ。野菜にしか見えなかった生徒たちの、一人ひとりの顔が見えた。それぞれ夢も悩みもある、一人の人間なんだなと思えた。その思いが、肩書きや立場ではなく「人」同士として相手と接したいという価値観をさらに強くする。

    そこで、当初はアパレル業界狙いだった就活をいったんリセットし、塾や教育機関に方向転換。そこで出会ったのがKECだったが、その衝撃は藤田の心臓を鷲掴みにして立体的に揺さぶった。「KECって『聖域』なんですよ。あえて皮肉な言い方をすれば、キレイごとでできた世界なんです。助け合おうとか、感謝しようとか、嘘をつかないとか。でも、現実社会ってそうもいかない部分があるじゃないですか。なのにKECは、本気でした。『キレイごとがキレイごととして、まかり通っている』感じで。そこで思い出したのが、母の教えです。一緒やん! って」。

  • 「辞めるために頑張る」という
    謎のモチベーション

    だがその期待の灯は、頭からバケツの水をかぶせられるかのごとく、1カ月もしないうちに消えた。自分らしくあるのはいいが、果たすべき義務もあるのが社会だ。「そういう意味では、私はほんとにポンコツで。塾企業の社員なのに、髪は明るく染めてるし、ネイルは派手だし、化粧は濃いし。そのくせ仕事はパッとしないし。さすがに周りからも『藤田はすぐ辞めるやろ』と思われてました」。

    と言うか、自分でも辞めたいと思っていた。業務中に教室で転職サイトを見ていたほどである。それでも喰らいつけたのは「自分で入社すると決めたんだから、せめて3年は頑張ろう」という思いがあったからだ。ここで逃げることは「自分で決めて、自分で責任を取る」という人生哲学に反する。「それからは、あと2年10カ月だ、あと2年9カ月だ、という退職カウントダウンですよ(笑)。で、その間に成果も出して、教室長の辞令を受けたその場で『辞めたるわ!』って言ってやろうと思って」。

    それは言わば、辞めるために頑張っているようなもので、モチベーションとしてはかなり斜め上を行っている。しかしそれもまた藤田らしさだということだし、結局辞めなかったのも、KECの持つ「聖域」が藤田を輝かせたからなのだろう。

  • 私が創るコミュニティが、
    「聖域」になれた瞬間

    もちろん、人生という物語は、ファンタジーのようにそこでハッピーエンドとはいかない。今でも思い出すのは、HR事業部に転籍して、学生と企業を結ぶマッチングイベントを企画したときのことだ。思いを持って取り組んだが、どうも盛り上がらない。特に忘れられないのが、学生が疲れ果てた顔をして帰って行くことだった。「どうしてなんだろう……」。悩みに悩んでPDCAを繰り返しながら、ある仮説にたどり着く。「これまでは『マッチング』と言いながらも、企業も学生もお互いを“評価”する場で、そして“評価”されるように自分を飾る場になってたんじゃないかと。お互い、役割を演じていると言うか」。

    そこで思い切って「アルコール解禁」とし、イベントの第2部的な位置付けてフリー懇親会を開催してみたところ、これが大ヒット。その名も「スナック優子」だ。酒の力も借りてか誰もが自己開示し、大声で笑い、ホンネで語り合っている。それまでワークショップをやるだけでは聞こえなかった「キミ、めっちゃいいね!」「そういうことがやりたんだね!」という声が飛び交っている。盛り上がりすぎて、お開きになっても帰らない参加者が続出したほどだった。

    それは、藤田が何よりも守りたかった「自分らしさ」で勝負できる就活そのものだったのだろう。「その光景を見たとき、やっと思えたんです。私がやりたかったこと、創りたかったものってこれだったんだって。自分が自分のままでいられる場、大事なことを大事だと言える場が創れたんだ。自分が提供するコミュニティが“聖域”になれたんだって」と、改めて感極まった顔を見せる。

  • 背負い込みすぎた人が、
    荷物を下ろせる場所になりたい

    藤田の実現したい世界は極めてシンプルだ。「みんなが楽しくて幸せだったらいいよね」、ただそれだけである。なのに人はなぜ、働くことを通して不幸を背負い込もうとするのか。仕事が「苦役」になるのか。給料が「ガマン代」になるのか。きっとそれは「社会や他人が求める自分になろうとしている」からだ。藤田はそれを変えたい。求められるものと、自分らしくあることが一致する生き方を届けたい。HR事業部として目指す社会も「週末だけが楽しみな、疲れ切った社会人をなくす」ことにある。

    まだまだ道のりは険しいが、だからこそ藤田は種をまき、水をやり続ける。「わたしはわたしらしく、あなたはあなたらしく」あって欲しいと心から願う。「きっと私は、自分を見失うほど何かを背負い込みすぎちゃった人が、荷物を下ろせる場所になりたいんだと思います。だからスナックを開きたいんでしょうね」。

    実際の開業はもう少し先の未来になりそうだが、もしあなたが心に重荷を感じることがあったなら、まずは「スナック優子」の優子ママを訪ねてみるといいだろう。